Artist Statement

私は世界を、ひとつながりの存在だと考えています。
木も、紙も、家も、雨も、自分自身も、それぞれ別々のものとしてではなく、同じ世界の異なる姿として在る。その感覚が、私の制作の根底にあります。
 

私が惹かれるのは、意味や役割によって整理された世界ではありません。
自然と人工、内と外、有用と無用といった境界が静かにほどけ、それぞれが等しく在るように感じられる景色です。

 

幼い頃、私は木々や草花に覆われた木造の空き家で過ごす時間を好んでいました。
人の痕跡は残っていても、人の姿はありません。雨音の響く薄暗い室内で、朽ちた木材も、伸びる草花も、自分自身も、ひとつの風景の中に等しく在るように感じていました。
そこでは、何かになる必要も、何かを求められることもない。ただそこに在る。その静かな感覚が、今も制作の原点になっています。

 

木や紙という素材にも、その気配を感じています。
紙は木から生まれ、人の手を経て姿を変え、やがて自然へと還っていく。その循環のなかに、自然と人工がゆるやかにつながる在り方を見ています。

 

作品に現れる白紙の本、小さな部屋、扉や窓、瓶や船、動物たちは、何かを象徴したり説明したりするためのものではありません。
それらは、世界との境界が静かに薄れ、言葉になる前の感覚に触れるための、小さな景色です。光と影、余白、そして気配を重ねながら、その感覚をかたちにしています。

 

私にとって制作とは、幼い頃の風景を再現することではなく、あの場所で感じていた世界との関わり方を、今という時間のなかでもう一度確かめていく行為です。

作品には、明確な答えはありません。
それぞれの記憶や感覚が静かに重なり、その人だけの景色が生まれる余白として在ることを願いながら、一つひとつ制作を続けています。

koki ota