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オオタコウキ



1989年/京都府生まれ。


静寂の中から光を紡ぎ出し、日常に小さな詩を灯すアーティスト。


古い木箱や小さな箱の中に、紙、彫刻粘土、真鍮、時計の古部品など素朴な素材を用いて繊細な白い世界を創造。


箱の中に綴られた小さな物語は、灯りがともると生命を宿したように輝き、見る人の心に静かな対話を生み出します。


産業社会での経験から生まれた問いが、「記憶の宮殿」シリーズへと昇華し、2020年頃から現在のスタイルを確立。


京都・大阪・東京での展示を重ねながら、静かな光の世界を探求しています。
 



アーティストステートメント




この世界は、まだ名もない白紙の物語たちの静かなささやきで満ちている。



誰の耳にも届かない言葉

誰の眼にも映らない景色

誰の口にも紡がれないひみつ

誰にも漏らさない胸のうち

誰にも語れない自分だけの物語。



ただ、あなたや私だけが知る物語の数々。

まだ文字に落とされず、形も色さえも与えられていない物語たちが、この世界の隙間に、そっと、息をひそめています。

目には映らない、そんな物語たちを「白紙の本」として、私はひとつひとつ時間を重ねて綴っています。




創作の原点




幼い頃の山で過ごした時間が、私の創作の原点です。

小枝や石で遊び、鉛筆で風景や図鑑の絵を模写する、家の中では本を読んで知らない世界へ冒険する単純な喜び。

白と黒の世界で陰影を表現し、造形の佇まいを捉えるその感覚は、時を超えて今の私の手の中に生き続けています。

成長とともに忘れかけていたその感覚を、私は長い迂回路を経て取り戻しました。

芸術家になりたいという幼い頃の漠然とした夢をいつしか諦め、石油工場での勤務による、機械的な日々の中での抑圧と鬱を経験。

そこから私を救い出したのは、ヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』から学んだ「内的自由の可能性」という概念。

そして、アーツアンドクラフツ運動の流れを汲んだ職人たちとの出会いにより、私は手仕事の尊厳に共鳴。

その後10年近くにわたり独自の表現を模索するため、初めは彫金や革細工など、様々な技術を学び始めました。

その過程で偶然出会った抽象絵画により、私は自由に絵を描くことの純粋な喜びを思い出しました。

当時の絵画制作は、産業社会での経験から生まれた鬱と対話するセラピーのような体験。

次第に、平面の表現から立体造形へと自然に移行していき、それらの経験が今、絵画制作と立体造形の並行的な創作活動という形で結実しています。




白紙の物語を紡ぐ




古い時計の木箱や小箱の中に、自然物や、紙、粘土、真鍮、時計の古部品を用いて、私は小さな白い世界を構築。

手彫りの小鳥や動物、重ねた白紙の本が作る街の風景。

それらは断片的な記憶や、言葉にならない感情の住処となる。

黒を基調としたコラグラフ技法による油彩画や、閉じられた世界に光を灯すランプも、同じ「白紙の物語」を別の形で表現したもの。

語られなかった言葉、見過ごされた瞬間、忘れられた感覚—それらに静かに息を吹き込むことで、私は目に見えない物語を可視化しています。




手の痕跡が語るもの




私にとって、創作は生きることと不可分です。

料理の手法や、日常での些細な経験のすべては表現の一部となり、下書きや図面を作らず、手と素材との対話から生まれる直感的なプロセスを大切にしています。

意図せず生まれる歪みや、手の痕跡は、完璧を求める現代社会への静かな問いかけ。

すべてが計画され、効率化されていく世界の中で、私は不完全さの中にこそ美しさと自由があると感じています。

それは喧騒の中の静寂、均質化された世界における個の証としての存在なのです。 




見えない物語との対話




私の作品が、あなたの内側にある「白紙の本」のページをそっと開くきっかけになれば幸いです。

日常の中の小さな箱や、光を灯すランプが、あなた自身の物語を思い出させる「実用の中の詩」として寄り添えますように。

この世界のあらゆる隙間に息づく、名もなき物語たちの静かなささやきに耳を傾けながら、私はこれからも目に見えるものと見えないものの境界を行き来し、一枚一枚、白紙の本のページを紡いでいきます。